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◆namelessさんからのご投稿
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                             五分間(手紙外伝) その1
 
二十七歳の阿部雄一は、婚約者で二十四歳の美奈子を連れて旅行代理店のドアを開いた。一ヵ月後の挙式会場も新婚旅行の日数も決まっているが、肝心の行き先を決めてなかったのだ。旅行代理店スタッフの河村亜美が、満面の笑みで二人を迎えた。
「美奈子、久しぶり。こちらが婚約者の雄一さんね。話に聞いてたより、凄くハンサムじゃない。あっ、失礼致しました。私は当代理店スタッフの河村と申します。美奈子とは高校・大学と一緒の親友で、私も式に招待して頂き、真に有難うございます。」
亜美は急にビジネスライクな口調になって、雄一に深々と頭を下げた。美奈子が笑って彼女に話しかけた。
「亜美ったら、そんなよそよそしい口の利き方しなくていいじゃない。雄一さんと会うのは初めてだから、改めて紹介するわ。こちらが婚約者の阿部雄一さん。大手金融機関に勤めてるの。私が勤めてる研修プログラムセンターを訪ねたのがきっかけで、知り合ったのよ。こちらは私の大親友の河村亜美。大学では一緒に心理学を専攻したの。今日は彼女に旅行プランをお願いしてるのよ。」
雄一は爽やかな笑顔で挨拶した。
「初めまして、阿部雄一と申します。忙しくて、あまり時間が取れないのですが、宜しくお願い致します。」
亜美は笑顔で二人を奥に案内した。
「お二人の御希望はヨーロッパの街並み散策か、南太平洋の島巡りのどちらかでしたね。真紀、例のCDをセットして。では早速お試し下さい。」
亜美は雄一を安楽ソファに座らせ、背もたれを倒し楽な姿勢を取らせると、彼の頭にヘルメットの様な物を被せた。真紀と呼ばれた女性スタッフが説明する。
「最初はお客様に、ヨーロッパの街並をバーチャル体験して頂きます。リラックスしてお楽しみ下さい。」
20××年、コンピューターのバーチャル機器が目ざましく発達し、電気信号を脳に送り、本当に体験した様な感覚を味わえるのだ。旅行用CDを揃えれば、自宅に居ながら世界旅行が楽しめるし、映画用CDであれば自分が主人公になれる。独身男性にはアダルトCDが欠かせない。またゲーム用CDは時間を忘れて嵌る人が多く社会問題になっているのは、昔のテレビゲームと同じだった。ただ旅行の行き先も映画のストーリーも同じなので、普通は二・三回同じCDを使用すれば飽きてしまう。しかし商品説明や旅行説明はパンフレットやテレビ映像より遥かに分かり易いので、積極的に利用されていた。
雄一は今晩美奈子とホテルで食事して泊まる予定だったので、時間が気になり壁の時計を見た。
(五時十分か…ホテルのチェックインを急がないと。)
頭の隅でカチッと音がして一瞬意識を失った後、目の前にヨーロッパの街並が広がった。雄一は周りを見渡しながら、街を歩き始めた。
一ヵ月後、雄一と美奈子は南太平洋の眩しい日差しの下、エメラルド色の海でのクルージングを楽しんでいた。
「やっぱり南太平洋ツアーにして良かったわね。」
美奈子が笑顔で雄一に話しかけ、雄一は満足そうに頷いた。
「そうだね。ヨーロッパの歴史を感じさせる街並も悪くなかったけど、毎日数字に追われる僕としては、やはり開放感溢れる南の海がぴったりだったよ。」
二人はバーチャル体験を比較し、結局南太平洋ツアーを選んだのだった。このツアーは夫婦かカップルで構成されており、雄一と美奈子の他に十二組が船に乗っていた。二人にとって嬉しかったのは、親友の亜美がこのツアーの添乗員になっている事だった。
『しばらくして目的地の島に到着致します。接岸時は揺れますので、一旦席にお戻り下さい。』
亜美の声で船内アナウンスが流れ、二人はデッキから自分たちのシートに戻った。その時、隣の初老の男性が話しかけてきた。
「あなた方は新婚旅行ですか?」
「はい、そうです。そちらは?」
「私達は定年退職の記念旅行ですよ。つれあいと一緒になって三十五年間、仕事に追われて新婚旅行にも行けませんでしたから、ようやく罪滅ぼしが出来ました。いや、お若い方が羨ましい。」
男性はそう言うと、隣に座っている初老の婦人の手を握り、目を合わせて微笑んだ。雄一は自分も年を取ったら、こんな夫婦になりたいと思った。再度、亜美のアナウンスが流れた。
『後五分程で島に到着します。最後の五分間、特に男性の方は美しい風景をお楽しみ下さい。
少し妙なアナウンスだなと思いながらも、雄一は美奈子の手を握り、二人で南国の風景を楽しんだ。桟橋に着くと、ビキニ姿の美女数名が花の首飾りを持ってツアー客を迎えた。彼女達は白人・黒人・アジア人と人種はバラバラだったが、揃ってナイスバディのグラマーで雄一は思わず口笛を吹き、美奈子に思いっきり足を踏まれてしまった。添乗員の亜美が説明を始めた。
「上陸するにあたって、簡単な検査と検疫があります。すぐ終わりますので、男性の方からこちらの建物にお入りください。」
男達は桟橋横のコンクリートの建物に、ぞろぞろと入っていった。中は机一つ無い殺風景なコンクリート剥き出しの部屋で、最後の一人が入るとスチール製のドアが閉められロックされた。異様な雰囲気に男達がざわめき出すと何処からかシューシューと何かが漏れる様な音が聞こえ、男達が次々に床に倒れた。
(ガスだ!)
ガスを吸って急に体の力が抜けた雄一は、床に膝を着いた。何とか立ち上がろうとしたが、ふっと気を失い倒れてしまった。
気がついた時、雄一は全裸でコンクリートの床の上で寝ていた。体を起こし周りを見廻すと、三方の壁と天井もコンクリートで正面は鉄格子であった。八畳位の広さの部屋の隅にステンレス製の和式便器が嵌め込まれてるだけで、他には何も無い独房だった。雄一は自分の首にステンレス製の頑丈な首輪が着けられているのに気がついた。
(一体どういう事なんだ?)
雄一は両手で鉄格子を掴んで独房の外を見た。通路を挟んで向い側にも雄一が閉じ込められている同じ造りの独房が並んでいたが、中には誰もいなかった。まるで刑務所の様だったが、雄一の真向かいの独房だけは違った。正面の鉄格子は同じだが、内装に明るい色の壁紙が張られ、きれいな机とベッドがあり、トイレも仕切りが設置されていた。そこには美奈子が閉じ込められており、彼女も鉄格子を両手で掴んで雄一を見ていた。美奈子はきちんと服を着ていて、特に異常は無い様だった。雄一は急に自分が全裸なのに気がつき、慌てて両手で股間を隠した。
「雄一さん、気がついたのね。」
「美奈子、無事だったのか。ここは一体何処なんだ?」
「それが…」
美奈子が答えようとした時、通路に靴音が響いた。靴音に目を向けると、二人の女性が近づいて来た。彼女達は黒色の制帽を被り、半袖の黒色軍服を着て、幅広の革ベルトを締め、白色の乗馬ズボンに黒光りする乗馬用ブーツを履いており、まるでナチスの女性将校みたいだった。二人とも輪にした一本鞭を持っており、何と一人は亜美、もう一人は真紀と呼ばれていた女性スタッフであった。雄一は鉄格子を掴み、目を剥いて怒鳴った。
「亜美さん、どういう事なんだ、これは!僕達をどうするつもりだ!早くここから出せ!」
「うるさいわね、お黙り!」
亜美は鉄格子を掴んでいた雄一の手を鞭で打ち据え、雄一は悲鳴を上げ手を引っ込めた。
「下等な男奴隷のお前にも理解出来るように、順々に説明して上げるわ。この島はアメリカ領で、ドミナント財閥の私有地なのよ。」
ドミナント財閥…アメリカの産軍複合体で、兵器・石油・金融・穀物市場を支配し、アメリカ大統領すら財閥の執事に過ぎず、世界の富の半分を手にしていると言われているアメリカトップの財閥で、現在は女性当主が仕切っている。それが自分達と何の関係があるのか、雄一は首を傾げた。
「ドミナント財閥の女性会長は常々男が女性を虐げているこの世界が我慢出来なかったの。それで裏のネットワークを通じて全世界の女性に呼び掛けた結果、この島全体が傲慢な男の矯正施設になったの。この島では男は全て奴隷で、女性はその支配者なのよ。島の名称はFEMDOM LAND、私達は女権王国と呼んでいるわ。」
雄一は再び大声を上げた。
「ふざけるな!それが僕と美奈子に何の関係が有るんだ!君は美奈子の親友じゃなかったのか!」
亜美は雄一の抗議を、鼻で笑った。
「ふん、お前には分からないでしょうけど、親友だからこの島に連れて来たのよ。男は女性の奴隷になり、女性は男を支配するものなの。私は親友の美奈子に女性本来の生き方をしてもらいたいのよ。」
「亜美、何を言ってるの?雄一さんと私をここから出して!」
美奈子が大声を出すと、亜美は悲しそうに彼女を見つめた。
「美奈子、あなたが目を覚ましてくれないと、自由にする訳にはいかないのよ。いいわ、私が男奴隷の本性を見せて上げる。」
亜美は制帽と鞭を真紀に預けると、雄一が入っている独房の鉄格子の鍵を開け、中に入って彼と向かい合った。
「さあ、私と素手で勝負しましょう。お前が勝ったら自由にして上げるわ。」
「いい加減にしろ!」
雄一は亜美に掴み掛かったが、その瞬間ブーツのつま先がみぞおちに食い込んだ。目にも留まらぬ亜美の前蹴りだった。
「ぐおっ」
雄一が呻き声を漏らし、体をくの字に曲げて前屈みになると、彼の頬に亜美の回し蹴りが決まった。
「ぐわっ」
たまらず雄一はふっ飛び、床に倒れた。脳震盪を起こし、しばらく動けなかった。
「あら、もうお終い?男のくせに女に負けて、恥ずかしくないの?」
「くそっ」
亜美の挑発を受け、頭に血が昇った雄一はふらつきながらも何とか立ち上がった。両腕でファイティングポーズを取る。
「まだ立てるの。じゃ、行くわよ。」
亜美は素早いフットワークで雄一に近づくと、身を屈め右のボディブロー、雄一のガードが下がったところで左のフック、彼の顔が横を向いたら右のストレート、彼の膝が崩れそうになったところで左のアッパーカットと、流れる様なコンビネーションで雄一を再度ノックダウンさせた。頭がぐらぐらになって仰向けに倒れている雄一の顔を、亜美のブーツが踏みにじった。
「私はこう見えてもマーシャルアーツのインストラクターなのよ。お前みたいな下等な男奴隷に負ける訳無いでしょう。言っとくけど、この島の女性は全て格闘技の達人だから、お前なんか十秒で殺せるわ。」
「むぐうっ」
雄一は亜美のブーツの下で呻き声を漏らし、男の自分が女に負けた屈辱に耐えられず、悔し涙を流した。
「亜美、もう止めて!」
美奈子の声に、亜美は雄一の顔からブーツを外した。代わりに鉄格子越しに真紀から制帽と鞭を受け取り、制帽をしっかりと被って右手に鞭を握り構えた。
       その2へ
妄想 SMクラブコレクション #1 北崎未来
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