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◆namelessさんからのご投稿
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                             「手 紙」
夜、スポーツジムから自宅マンションに着き、郵便受けを確認した遼子は顔をしかめた。
(嫌だ、また来てる。)
 彼女は“西川遼子様”と宛名を印字された封筒を手に、玄関のオートロックを開けて自分の部屋に向かった。ドアを開けて灯りを点け、部屋を見回した。地方の資産家である親が東京で暮らす娘を心配してセキュリティ万全のマンションを貸し与えてくれたが、一人暮らしの遼子に4DKの部屋は少し広過ぎた。遼子はテーブルに着き、封筒を開けて中の便箋を読み始めた。
《私の心の女王様、憧れの遼子様。私はまた夢の中で遼子様に御調教を賜りました。遼子様は私を人間馬として、御使用下さったのです。遼子様は凛々しい乗馬服姿で、全裸で四つん這いの惨めな姿の私に跨って下さり、鞭と拍車で速く走れと御命令下さったのです。私は遼子様に御満足して戴こうと懸命に走りましたが、すぐに疲れてしまい、手足に痙攣が来て途中でうずくまってしまいました。お怒りになられた遼子様は私の全身を鞭で御打ちなさった後、乗馬靴で私の股間の醜い物を踏み潰されたのです。その瞬間、目が覚めて布団をはぐってみると、私の股間はべとべとに汚れていました。夢精してしまったのです。私は遼子様の……》

 翌日、会議室で遼子が一人の男性に相談していた。
「阿部室長、こんな手紙がもう三ヶ月位送られて来るんです。もう気味が悪くて…やはり警察に届けた方が良いでしょうか?」
 彼女の上司である阿部譲治は見せられた手紙の束をテーブルに置き、腕組みをして首を横に振った。
「うーん、警察に行っても意味は無いだろう。これらの手紙には《遼子様の奴隷になりたい》《パンティになりたい》《人間便器にして下さい》等と確かに胸が悪くなる変態的な文章はあるが、《襲ってやる》《レイプしてやる》等といった脅迫的な表現は無く、むしろ西川さんを崇拝している内容だ。これでは脅迫罪にならない。それに手紙が来るだけで、西川さんがつけまわされたとか、下着を盗まれたとかも無いんだろう。ぎりぎりストーカー規制法に掛かるかもしれないが、相手が判らなければ中止命令も出せない。警察に届けても、心当たりは有りませんかと昔にさかのぼって男性との交友関係を根掘り葉掘り聴かれて不愉快な思いをしたあげく、今の状況では事件になりませんと言われるのがオチだろうな。」
「それなら興信所に依頼して、送った相手をつきとめるのは?」
 彼は再度、首を横に振った。
「それも難しいだろう。電話かメールなら交信記録からたどる事も可能だが、これは普通の郵便で、場所を変えて投函したらしく消印も都内あちこちの郵便局のものだ。宛名も内容もプリンターで印字してあるから、筆跡も判らない。かなり用心深い奴の仕業だな。」
 遼子は肩を落とし、ため息をついた。
「それじゃ迷惑なダイレクトメールと思って、封を切らずに捨てる位しかありませんね。」
 彼はまたも首を横に振った。
「いや、一応読んで内容をチェックしてからにするべきだ。今までは無い様だが、これから先、いつ脅迫的な内容に変わるかもしれない。そうなった時のために、気持ち悪いだろうが読んで確認し、証拠として保管しておくのがベストだろう。」
 遼子は肩をすくめ、手のひらを上に向けた。
「つまり、今まで通り気味が悪いのを我慢して変態の手紙を読んで、様子を見るしかないという事ですか。」
 彼は苦笑して答えた。
「まあ、そう言わないで。気持ち悪いだろうけど、実質的な被害は無いんだし、西川さんみたいな魅力的な美人は大抵似たような悩みを抱えてるものさ。さあ、オフィスに戻ろう。仕事が山積みだ。」
 そう言って爽やかな笑顔でウインクし、席を立った。
(もう、阿部室長たら…)
 憧れてた阿部譲治に魅力的な美人と言われ、思わず頬が緩んだ遼子は慌てて彼について行った。
 32歳の若さで大手シンクタンクの室長を任される優秀な阿部譲治は、スマートで端正な顔立ちのエリート社員で、女子社員の憧れの的であった。遼子も29歳と些か年はいってるが、目がぱっちりとした美人で退社後のスポーツジム通いを怠らず、均整の取れた体型をした独身OLであるから、男性社員の誘いを断るのに苦労している。もっとも年下からの誘いが多いのは痛いところであるが、肝心の阿部譲治が誘ってくれないのを不満に思っていた。彼は独身なのに女子社員の誘いに乗らず、社内で浮いた話が無い。一度遼子が冗談で、
「阿部室長は女性より男性に興味が有るんじゃないですか?」
と尋ねると、
「新宿二丁目の美少年よりは清掃のおばちゃんを選ぶよ。僕は色恋沙汰をビジネスの場に持ち込まないだけさ。」
と笑ってクールに答え、遼子をうっとりさせた。
「阿部室長、勤務時間中にプライベートな相談をしてしまって申し訳ありません。」
「何言ってるんだ、困った部下をフォローするのが上司の役目だよ。今後何か変わった事があったら、遠慮なく相談してくれ。」
「はい、よろしくお願いします。」
 遼子は彼に一歩近づけた気がして、目を輝かせた。そして二人は席に着き、データ解析やレポート作成等の多忙な日常に戻った。
二週間後、夕方遅くに会社から出た阿部譲治は後ろから声を掛けられ振り向いた。
「あれ、西川さん。先に帰ったんじゃなかったの?」
「阿部室長をずっと待っていたんです。以前相談したいやらしい手紙について新しい事が判ったので、是非お話したいんです。」
 譲治は少し顔色を変えたが、すぐ平静に戻った。
「どういう事なんだい?」
 遼子は譲治の目を真っ直ぐに見つめ、答えた。
「ここでは、とても話せません。長くなりますので、私の部屋でお願いします。」
「こんなに遅い時間でもいいの?」
「構いません。明日からゴールデンウイークですから、今日しかないんです。」
 譲治は遼子に何か思い詰めた様な雰囲気を感じ、断れず二人で会社近くの遼子のマンションに向かった。部屋に入りテーブルに着くと遼子はお茶も出さず、譲治に一通の手紙を差し出した。
「これ、三日前に来た手紙なんですけど、この部分を読んで下さい。」
「…《遼子様のパンティにも生理用ナプキンにもなって御傍にいたいのに、携帯ストラップのビーズ一粒にさえなれない自分が悲しいのです。》…これがどうかしたのかい?」
 遼子は厳しい表情で答えた。
「一週間位前、私がオフィスで親戚の子にあげるつもりのビーズの袋を持ってたら、阿部室長に声を掛けられましたよね。その時、私は『ビーズで携帯ストラップでも作ろうと思って』と適当に答えたんですけど。」
「…?」
「私、今までビーズのストラップを作った事も使った事も無いんです。そして、その時オフィスには私と阿部室長の二人だけで、他に人影はありませんでした。つまり、この文章は阿部室長にしか書けないんです。」
 譲治は顔面蒼白となり、しどろもどろに答えた。
「しかし、西川さん、それだけで…」
「今までの手紙と阿部室長所有のプリンターを詳しく調べれば、印字の特徴が一致する筈です!」
 譲治はがくっと肩を落とし、俯いてしまった。
「阿部室長に相談した時、警察にも興信所にも行かせず、手紙も必ず読む様に示唆した事も、今になって判ります。今までの手紙は全て阿部室長が送ったものですね。この件は役員に報告しますよ!」
 譲治は俯いていた顔を上げ、哀願した。
「頼む、西川さん、それだけは勘弁してくれ。」
 その頬に目も眩む様な強烈な平手打ちが炸裂し、譲治は椅子から床に転げ落ちた。
「ふざけないでよ、この変態!なぜこんな手紙を送り付けたのか、理由を言いなさい!」
 遼子のあまりの見幕に、譲治はその場に土下座して謝罪した。
「申し訳ございません。どうかお許しください。」
「私は理由を言えと言ってるのよ!」
 譲治は土下座しながら、訥々と告白し始めた。思春期に自分の性癖がマゾだと気づいたこと、それ以来女性とまともに交際出来ず、普通のセックスにも満足出来なかったこと、誰にも打ち明けられずSMクラブにも行った事が無いこと、半年前に遼子が配属され一目惚れしたこと、しかしまともに告白出来ず自分の屈折した願望を手紙にすると止められなくなったこと…
 遼子は彼の告白を聞き、柳眉を逆立てた。
「ふんっ、きちんと申し込めば良かったのよ。私もお前に憧れてたのに。」
 いつの間にか呼び方が《阿部室長》から《お前》に変わっていた。
「でも、お前みたいなマゾの変態に憧れ、しかも手紙を寄こした張本人に相談してたなんて、自分の馬鹿さ加減に腹が立つわ。この三ヶ月間、私がどんなに不安で不快な気分だったか想像出来るの!絶対に許さない!」
 遼子の凄まじい怒りに、譲治は震え上がった。
「お許し下さい。どんな償いでも致します。」
「じゃあ、服を脱いで。」
「…?」
譲治は言葉の意味が分からず、思わず上体を起こし遼子の顔を見上げた。
「お前、私の奴隷になりたいんでしょう。奴隷が服を着ててはおかしいわ。早く脱いで裸になりなさいよ!」
 遼子の目は大きく見開き、興奮で頬を上気させ、口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。譲治は彼女が支配者として覚醒した事を一瞬にして悟った。
「何ぐずぐずしてるの!」
 再び譲治の頬に目から火花が散る様な平手打ちが炸裂し、その場に倒れた。
「ひいっ、お、お許しを!」
 彼は慌てて服を脱ぎ、トランクス一枚の裸になった。またも強烈な平手打ちが彼の頬を襲った。
「私は裸になれと言ったのよ!パンツが残ってるじゃないの!」
 譲治は一瞬ためらったが、思い切ってトランクスを脱いで全裸となった。股間に遼子の視線を痛い程感じた。彼のものは勃起し始めていた。全裸の譲治は再び遼子に土下座して許しを乞うた。
「お許しを、どうかお慈悲を。」
「顔をお上げ!」
 遼子の命令で上半身を起こした譲治に、犬の首輪が投げ付けられた。
「それを着けなさい。お前のために、昨日わざわざペットショップと郊外の馬具専門店に買物に行って上げたのよ。感謝しなさい!」
「は、はい、ありがとうございます。」
 譲治は自分に首輪を着けながら、思考が混乱していた。今、自分の長年の夢が叶った筈なのに、男の自分が女に恥辱の命令を受け、耐え難い屈辱を感じている。しかし、その屈辱感が自分を興奮させ、股間のものを硬くさせている。しかし現実で女性に残酷に扱われるのは、甘いマゾヒティックな幻想を遥かに超えていた。
 首輪を着けた譲治に次の命令が下った。
「私、男の人のオナニーを見た事が無いの。膝をついて、腰を突き出してオナニーして見せて。」
「は、はい。」
慌てて自分の固くなったものを握り、手を前後に動かし始めた。
「滑稽な姿ね。記念に撮影して上げる。」
 遼子は彼の痴態をデジタルカメラで動画撮影を始めた。
「男のくせに女の前でよくオナニー出来るわね。お前は猿以下よ!」
 遼子は自分で命じておきながら、譲治に侮蔑の言葉を投げ掛けた。遼子の罵声と蔑みの視線が彼の胸を抉り、目頭を熱くさせた。しかし、それが興奮を高め、彼のものは硬度を増し、知らず手の動きが速くなった。
「お前は女にオナニーを見られて興奮してるの。最低の変態ね!」
 遼子の蔑みが譲治の胸をズタズタに引き裂く様な屈辱を与えた。だが彼のものはますます大きく硬くなり、感覚も鋭敏になっていく。
 間もなく、喘ぎ声を漏らして多量の白濁液を撒き散らした。その瞬間、譲治は自分の魂が全て抜き取られた様な錯覚をおぼえ、力が抜け、その場にへたり込んだ。
「よく私の前でオナニーして射精出来たものね。この恥知らず!お前は最低の変態よ!」
 譲治の頭の中で遼子の罵声が反響し、目から涙がこぼれた。遼子は彼の顔にティッシュの箱を投げ付けた。
「泣く暇があったら後始末おし!こんなに床を汚して。何だったら舐め取ってもいいのよ!」
 譲治は慌てて床の精液を拭き取った。それが済むと遼子は譲治に両腕を背中に回させ、馬具専門店で購入した革紐で縛り上げた。それから彼を家具の無い部屋に連れて行った。そこは彼女がトレーニングルーム代わりに使用している余った部屋だった。
「頭を床に付け、お尻を上げなさい。足はもっと開いて!」
 頭で上半身を支え、尻を上げ、足を開いた屈辱的なポーズをとらされた譲治は股間に遼子の視線を感じ、恥辱で体を震わせた。
「そのままの姿勢でお待ち!」
 遼子は通勤用のスーツを脱ぎ、濃紺のブラジャーとパンティだけの下着姿となり、部屋の隅に置いていた大きなスポーツバッグから革で編み上げられた黒光りする一本鞭を取り出した。
「これは馬具専門店で買った牛追い鞭よ。お前がどんな声で鳴いてくれるか、楽しみだわ。このマンションは完全防音だから、少々悲鳴を上げても心配要らないわよ。」
 彼女は空中で鞭を鳴らして譲治を威嚇し、縮み上がらせた。
「いくわよ!」
 遼子は譲治の尻に、容赦の無い鞭の一撃を横殴りに浴びせた。
続く その2へ
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